志賀毒素とは?O157が作る毒素とHUSの関係をわかりやすく解説する
公開 2026年8月18日
志賀毒素とは
志賀毒素(しがどくそ、Shiga toxin)とは、腸管出血性大腸菌(EHEC、代表的な血清型がO157)や赤痢菌(Shigella dysenteriae)が産生するタンパク質性の毒素である。志賀毒素にはStx1とStx2という2種類が知られており、いずれもA1B5型と呼ばれる構造を持つ。名称は、この毒素を発見した日本の細菌学者・志賀潔にちなんで名付けられた。志賀は1897年に赤痢菌を発見した人物としても知られ、その功績は現在も感染症研究の歴史において重要な位置を占めている。
毒素が働く仕組み
志賀毒素は「B鎖」と呼ばれる部分が、腸管などの細胞表面にあるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)という受容体に結合することから作用を始める。細胞内に取り込まれると、今度は「A鎖」と呼ばれる部分がリボソームのRNAを切断し、細胞がタンパク質を合成する働きを止めてしまう。その結果、毒素が結合した細胞は正常に機能できなくなり、やがて死滅する。この作用は非常に強力で、ごく微量の毒素でも細胞に致命的な影響を与えることが知られている。Gb3受容体は臓器によって分布に差があり、これが症状の現れ方に影響すると考えられている。
体に起こる症状
志賀毒素は特に腸管の血管内皮細胞(血管の内側を覆う細胞)を傷害するため、感染すると腹痛とともに血便を伴う出血性大腸炎を引き起こす。さらに毒素が血流に乗って腎臓に到達すると、腎臓の血管内皮細胞も傷害され、赤血球が壊れる溶血性貧血、血小板の減少、急性腎不全を三徴とする「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を発症することがある。HUSは特に子どもや高齢者で重症化しやすく、命に関わる場合もある病態として知られている。発症の初期には風邪のような症状しかないことも多く、見逃されやすい点にも注意が必要である。
感染経路と予防
志賀毒素を産生する菌への感染は、加熱不十分な食肉や汚染された生野菜、井戸水などを介して起こることが多い。少量の菌でも発症する感染力の強さが特徴であり、集団食中毒の原因となることも珍しくない。予防には、食品の十分な加熱、調理器具の消毒、手洗いの徹底が有効とされている。特に子どもや高齢者がいる家庭では、食材の取り扱いに一層の注意が求められる。また、感染者の便を介して人から人へ二次感染することもあるため、家庭内や保育施設などでは排泄物の適切な処理と手指衛生の徹底も欠かせない対策とされている。
治療上の注意点
志賀毒素を産生する大腸菌感染症では、抗菌薬の投与によって菌が破壊される際に毒素が一気に放出され、かえってHUSのリスクを高める可能性が指摘されている。そのため治療方針の判断には専門的な医学的知見が必要であり、自己判断での対応は避けるべきとされている。症状が疑われる場合は、水分補給に注意しながら、速やかに医療機関を受診することが重要である。